くるみ割り人形
3Dは、スクリーンの向こうに映像と夢を拡げ、ひとつの旅を体験させる装置である。必要なのは、感情を揺らすストーリーと、身体を揺する映像効果を駆使し、観客をその世界の中へ“没入”させ、冒険させるという総合演出だ。

“B級映画に最適、奇術に等しい”と見下されてきた立体映画は、デジタル技術の躍進により2009年、鮮明な3D映像が、その飛び出し像と奥行き空間を持って、目の前に拡がった。そんな“次世代3D元年”から6年、ハリウッド大作映画では当たり前になったこの映像スペクタクルは、日本においては停滞気味である。海の向こうでは、3Dライヴ撮影のためのカメラ技術の躍進が、ジェームズ・キャメロンを筆頭に続けられ、2Dで撮影したものを3D化するコンバージョン(変換)3Dの質も向上した。3D変換化に関しての目覚ましい躍進は、この分野のトップであろう米「ステレオD」社の『パシフィック・リム』(13)を見れば一目瞭然だ。あれが、かつて“なんちゃって3D”と言われた3D変換作品とは信じられなかった。また、マイケル・ベイらは、金属変貌映画で、3D撮影と変換、その両方を組み合わせながら立体空間を創り出すという工夫を凝らしている。

本作の3Dは、かつて私自身も蔑んでいた3D変換作品である。意識が変わったのは、前述のギレルモ・デル・トロの仕事に魅せられ、その芳醇な立体空間を体験したことからだった。
また過去の2D映画を3D化する企画としては、本作は日本映画では初めての試みだ。アメリカでは、3Dのパイオニアのひとりであるジェームズ・キャメロンが『タイタニック3D』(12)で、素晴らしい変換技術を披露し、最近でもスピルバーグが『ジュラシック・パーク』(93)を、古い作品では『大アマゾンの半魚人』(54)や『オズの魔法使い』(39)も3D化され、オリジナル版の延長線上に、独特の世界観及び臨場感を映し出すことに成功している。

制作プロダクションを映像製作会社キュー・テックに置いたのも、その3D変換クリエイターの第一人者、三田邦彦がいるからだった。日本初3D変換アニメ映画『劇場版 遊☆戯☆王 ~超融合!時空を越えた絆~』(10)を筆頭に、アニメ作品『ヒピラくん』(11)の3D映像、2Dで撮影し3D化を行った初の劇場用長編実写日本映画『THE LAST MESSAGE 海猿』(10)、2013年には『SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK』を手掛けた、この分野のパイオニアだ。独自の変換美学を磨いていた彼にとっても、本作はとても厄介だった。実写映画でもなく、アニメでもない、しかしその両方である実写人形アニメーションという未知の分野への挑戦。
また彼は、もともとCGアーティストなので、2D空間を3Dへ押し広げ、さらにその空間をよりアトラクティブにするデコレーション“立体CG効果”を組み込む技術とセンスを持ち合わせている。

前にも書いたが、本作は、オリジナル版の延長線上にある映画ではない。根幹に置くテーマから視覚・聴覚に至るまでを作り変え、まったく新しい世界を産み出すためのリ・クリエイトを行う企画。映像を立体化する変換過程と並行し、新たな3Dアイディアが続々と溢れ出し、設計されていった。どれほどの物量の映像効果が結果的に投下されたのか?私たちの挑戦の大きな醍醐味だったので楽しんで頂きたい。
ちなみに“平成ガメラ”映画における金子修介と樋口真嗣の如く、三田3D監督と増田監督の相性はとても良く、増田監督はアッという間に3Dの基本概念を習得していった。3Dは、2Dでは及ばない“崇高な”映像空間と、驚かせるという“低俗な”発想が混在しながらある世界観に集約されていくもの。増田監督は、自身のアートにも現れているように、悪戯心の外連味と美意識が混在する作家性を持ち得ているので、適応力のベースはあった。
そして、彼の発案によって、保存状態の良い“出演者たち=人形”を3Dカメラによって新たな撮影を行った。さらにまったく新しいアニメ・パートも製作し、そこではアン・リーが『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(12)で行った3D視覚効果“ブロークン・ウィンドウ”を活用した。映し出される映像のフレームを壊す、すなわち外へ飛び出し、外から入り込むトリック、これも日本映画では初めての試みなので楽しみにしてほしい。

両名からあの手この手で、観客がクララと共に“人形の国”へ入っていく体感型映画の仕掛けが続々と飛び出し、ほとんど全カットに施された。2009年の“デジタル3D元年”以降、いや3D映画史上、おそらく最大の“飛び出し効果”を導入しまくった点も、『アバター』(09)以降の“奥行効果”を狙った品の良い立体映画に反し、必然性のあるアトラクション効果として全編に渡って見せ場となった。
  

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